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【現代アートへの誘い】Vol.01 ライアン•ガンダーとSNS時代に生きる私たち

【現代アートへの誘い】Vol.01 ライアン•ガンダーとSNS時代に生きる私たち

2022.10.17

意味不明な現代アート

アート」と聞いて、思い浮かべるものはなんですか?

ゴッホの「ひまわり」や、ダヴィンチの「モナ•リザ」、ミケランジェロの「ダビデ像」等々が思い浮かぶかもしれません。

上に挙げたような作品は、誰しもが見たことがあるほど有名で、価値のある美術品だと思います。好きか嫌いかはともかく、立派な「アート」作品であることは、共感してもらえると思います。詳しいことは分からなくても、これが芸術であることは間違いないと思うはずです。

さて、今から私が紹介していくのは、果たしてこれが芸術なのかどうかも分からない「現代アート」の世界です。

ガラクタを寄せ集めて立体的にしたもの、掃除機をガラスケースに入れて飾っただけのもの、アメリカの国旗が描かれた絵……etc. 挙げていけばキリがないほど、現代アートの世界にはパッと見では訳の分からない作品が大量にあります。現代アートは、「ひまわり」を観るようには鑑賞できないのです。

それでは、この訳の分からない現代アートを理解するためには、何が必要なのでしょう?

重要な鍵は、現代を生きる私たち自身です。この点を踏まえることで、現代アートの理解が一歩深まります。

今回はこのテーマをもとに、ひとりの芸術家とその作品を紹介します。

時間と注意力の芸術家

これから作品を紹介していくライアン・ガンダーは、イギリス生まれの現代美術家です。

この人がどんな人物であるかはともかく、実際の作品を見ていきましょう。

(写真は「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」, 東京オペラシティ アートギャラリー, 2022 にて筆者が撮影したものです。)

肌が真っ黒な人が床に座り込んでいます。視線の先には同じく黒い立方体がある、といった具合です。

展示会場に入って最初に目に飛び込んできたのですが、なにやらインパクトがあります。

どうやらこの人形は黒鉛で出来ているようです。会場の壁が黒く汚れていますが、これはこの人形が壁に接触しながら移動していた痕跡なのです。

配布された資料を読んでみると、この人形はダンサーであり、この会場で踊っていたのだということが判明します。

視線の先にある黒い立方体は同じく黒鉛でできており、彼女は自分を構成する物質をじっと見つめていることになります。

実際に今この作品を見ている私たちの前には、動かない人形と立方体があるだけですが、壁にある痕跡や人形と箱の関係が、その裏側にある時間を感じさせます。

展示会場の様子です。入口で配られる作品のタイトルと説明を読みながら、来場者は実際の作品と照らし合わせて鑑賞していました。

一枚の硬貨が床に落ちています。誰かが財布から落としてしまったコインのようにも思えますが、これも作品です。

未来で発行される硬貨として説明がなされています。時代を超えてこの会場に不時着したのでしょうか。腰を屈めてじっと眺めるこの作品は、その小ささによらずいつか訪れる時代についての妄想を巡らします。

コインの表側しか見ることができないことも考えてみるべきでしょう。表の情報をもとに、裏のことを想像する心の働きを誘導しています。見えない、明かされないことは、私たちの想像を膨らませ、見えないことによって逆に、無限の可能性を開くのです。

最後に紹介するのはこの「」です。ガラスを透かして外の風景が見えますが、これは本当の景色ではありません。

作家自身のアトリエにある窓を、CGによって再現したものです。24時間の映像となっており、時間の経過とともに明るさなどが変化します。

ここでもライアン・ガンダーは、鑑賞者に時間の存在についてのメッセージを送っています。24時間の映像作品とも言えるこの「窓」を鑑賞するには、24時間ずっと立ち尽くして眺めるしかないのでしょうか?

もちろん、それは現実的には難しい話でしょう。鑑賞者は全体のうちほんの一瞬しか、この作品を見ることはありません。この鑑賞は、実際の窓を眺める行為にとてもよく似ています。ライアン・ガンダーの「」と現実の「」を眺めることを頭の中で比較し、我々が風景に対して向ける眼差しを客観視することになります。

ゆっくり行こう

ライアン・ガンダーの作品紹介はここまでで終わりです。

紹介した作品には、「時間」というテーマが共通していると思います。

かつて流れていた時間を想像させるものや、未来の時代を予感させるもの、一日の流れを実感させるもの。日常生活では出会うことのない、時間との触れ合い方を提示しています。

さらにもうひとつ共通するテーマがあります。それは「注意力」です。

じっと眺める必要があるもの、細部を見つめて関係性を発見するもの、配慮する必要があるもの、など。身の回りにあらゆる情報が溢れ、注意力が散漫になりがちな私たちへの優しい警告のように思えます。

ライアン・ガンダーは、私たちの「時間」と「注意力」を見つめ直すきっかけを促しているのです。両者はSNSをはじめとする情報社会によって画一化され、浪費されています。さまざまな媒体が時間を取り合い、注意力を奪い合っているのが、この社会の現状です。

時間に寄り添い、注意力を回復させて、もっと世界をよく見渡してみよう。そんな簡潔なメッセージが、愛嬌のある作品たちから伝わってくるようです。

ゆっくり行こう

ライアン・ガンダーはそう語っています。

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